【前回のあらすじ】
美容院経営の成功に不可欠(と思われる)『明確なコンセプト』『独創性』『永続的な需要』この3つの条件を満たすヘアサロン。

そんなサロンがまだイメージ段階ではあったが現実味を帯びてきた。

しかしこの時、毎月のサロン売上げは60万円前後と、独立開業とは遥かに縁遠い数字だった。


立ちはだかる現実という名の高い壁。



第4話はこちら




【第5話】一念発起



どうしよう。


いや、どうしようもない。



60万の売上げじゃ、独立はできない。


そりゃそうだ。



都内の主要駅でやるとなると家賃は安く見積もっても坪単価2万〜3万はかかる。

15坪程の小さな美容院でも毎月30万〜45万は家賃だけでかかる。


もちろん出費がかさむのは家賃だけではない。
光熱費に材料費、広告費に雑費、開業資金を借りたら返済もある。
そう私の給料もだ。


しかも、顧客の男女比は2:8と圧倒的に女性が多い。

ということはメンズサロンをやるとすると、男性だけの月の売上げとなる。そうすると60万よりはるかに少なく、10万ちょいといったところだろう。

さらに店の移動に伴う客離れも少なからず予想される。
そうなると月の売上げが10万を切る可能性も大いにある。




実は問題は売上げだけではない。



私はヘアメイクもやっており、撮影に出ることも多々ある。
その間、店は閉めることになる。




…だめだこりゃ。



…絶望的に無理だ。




…諦めるか。






…でも、やりたい。




このサロンには必ず勝算があるはず。



特殊な特徴を持つそのメンズサロンは、3つの重要要素である
『明確なコンセプト』『独創性』『永続的な需要』
を満たしているだけではなく、美容院経営者なら誰しもが抱える悩みも解決できるかもしれないと思っていた。




一般的に美容師の旬は短く早いといわれる。



なぜ美容師は寿司職人のように年齢や経験を重ねるごとに深みを増す職人になることが難しいのか。


恐らく大きな理由の一つに、歳をとった美容師が作るスタイルがお客様に古く感じられてしまい、客離れしてしまうことが挙げられる。


その原因として多くの美容師が流行りのデザインを模倣できるよう努力する。


年齢とともに模倣することが億劫になったり、困難になったりする。

その結果、作るスタイルが古くなる。



一方、特殊なことにスポットを当てるそのサロンは、熟練が大きな武器になる。

しかもトレンドを取り入れるのはほんの少しで良い。お客様はそこをメインに求めてはいない。
薄毛をカバーするカット技術に古いもクソもないのだ。
それどころか熟練になるほどその特殊な技術に磨きがかかることだろう。



また、このような効果も期待できる。
大概のサロンはスタイリストにお客様が付いている。
その為、スタイリストが退社する時はお客様もこぞって移動してしまう為、お店にとって大打撃となる。

しかしサロンのコンセプトが目当てで来店いただけた場合、そのリスクは最小限に食い止められるのではないだろうか。

お客様が
スタイリストを支持しているか。
サロンそのものを支持しているか。

これは将来とても大きな違いになる。





とはいえ、どうしても先ほどの数字がちらつく。


お店を開店したとしても、初月の男性客の売上げ予想は10万円だ。

悲惨である。





とはいえ、

「やらない。」




という選択肢は自分の中にはもう無かった。



よし、やろう。

私は大勝負に出る決意を固めた。




【あとがき】

美容師という職業は、なりたい!と思えばなれます。
弁護士や医者などと違い、目指した人のほとんどが美容師になれます。

なので本当に美容師に向いていて、美容師になる人なんてごくわずかです。

美容師になってから努力し、足りない分を補います。
しかし、本来は向いていない人も多いので努力だけではどうにもならない人も多くいます。

でも「美容師」という「資格」を取ってしまったばっかりに、自分が向いていないと気付いても辞めることが「勿体なく」感じてしまい美容師を続けます。(本当はその方が勿体ないんでしょうが)

何が言いたいかというと、
美容院を経営し人を雇用するなら
本来、美容師に向いてない人を雇うんですよ。ってことです。

例えばアシスタントから雇ってスタイリストになった。
10年働いているけどまだ50万くらいの売上げだ。

本人の努力が足らん!
ではなく
99%オーナーのせいです。

ってことです。
このご時世、個人でお客様をバンバン呼べるなんてほんの一握りなわけです。

お店にお客様を呼ぶのはオーナーの仕事です。

「わかった。
じゃあ、色んなとこに広告だすから後は自分でお客様を返せよ!」

いえ、お客様を戻すのもオーナーの仕事です。

自分でお客様を呼べて、自分でお客様を戻せるなんてごく僅かです。


この話、長くなるので続きはまた書きます。
では。

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オープン当初。お客さまがいなすぎて、手が空いたら外で配っていた。



【前回のあらすじ】
美容院のコンセプトを決めるにあたり、ターゲットを設定した。


『34歳のAGA(男性型脱毛症)に悩む独身男性』


お店のターゲットを決める際は「ターゲット層」を決めるのではなく、より詳しい「ターゲット像」を決めることが重要だということに気づいた。


そんなターゲットが通い続けたくなる美容院。

それはどんな美容院なのだろうか。


第3話の詳細はこちら



【第4話】現実の壁


ターゲットが決まると様々なことが必然的に決まる。

例えば、場所や営業時間、メニュー展開から価格設定まで。

全てはターゲットに合わせれば良いので、そんなに難しい問題ではなかった。


イメージするだけで次第に気持ちは高まっていった。



その先走る気持ちを抑えながら
『明確なコンセプト』
について考えてみた。


ん?
ところでコンセプトって何だ?

コンセプトが重要なのはわかっていたが、コンセプトがなくてもターゲットがしっかり決まっていれば、コンセプトを決める必要性を感じなくなったからだ。


そこで「コンセプト」をgoogle先生で調べてみると

概念、全体を貫く基本的な観点・考え方
とある。
そして、こう続く。

例えば「今度開店するレストランは"近未来"でいこう」と言った場合、レストランの店名、内外装、メニュー、広告などに、近未来的な演出を施そうという意味になります。

と。


なるほど。
でも、なんか腑に落ちない。

なぜならターゲットが明確に決まっている以上、コンセプトは?と聞かれても


『ターゲットが喜ぶヘアサロン』
すなわち
『薄毛に悩む男性のコンプレックスを軽減するヘアサロン』
という事以外に思いつかないのだ。


あ、これがコンセプトか。

たしかに明確といえば明確だ。


よってサロンのコンセプトは
『薄毛に悩む男性のコンプレックスを軽減するヘアサロン』
で決まった。



つぎに『独創性』だ。

メンズサロンは沢山ある。
しかし、薄毛にターゲットを絞っているサロンは皆無に近い。

皆無に近い、といえどあることはあった。
大手育毛メーカーや、カツラメーカーがやっている美容院だ。

ただ正直あまり格好良いものではなかった。

『格好良くてオシャレなんだけど薄毛対策に特化しているメンズサロン』

それは日本中どこを探しても存在していなかった。



そして最後に
『永続的な需要』

これに関しては自信があった。
男性の薄毛問題は永遠のテーマだ。

薄毛に悩む男性は1300万人いると言われている。
どんなに医学が進歩しても、実用化はまだ程遠い。
もうしばらくは需要が見込める。



さて、3つの条件がそろった。

ということは勝算があるという事だ。


「間違いない。これは行ける。」


そう思った時。




ふと、数字的な問題が脳裏をかすめ、浮き足立っていた自分が一気に現実世界に引き戻された。




なぜならその当時、サロンの月売上げは60万円ほどだった。



美容師をやってない人にはピンとこないだろうが、大体月売上げの目安として

・100万以下
うじゃうじゃいる平凡プレイヤー
・100〜200万
その店のメインプレイヤー
・200万〜300万
トッププレイヤー
・300万以上
よっ!人気者!プレイヤー

と言ったところだろう。(あくまで個人的見解)

大体150万を超えたあたりから独立を意識し始め、200万を超えそうなくらいで独立する人が多いのではないだろうか。



そう。



そもそも60万ごときの売上げじゃ「激戦区で独立」なんて現実的に出来る訳がないのだ。




【あとがき】

現在、当店のコンセプトは
『ヘアデザインで人生を変える』
で統一している。

『薄毛に悩む男性のコンプレックスを軽減するヘアサロン』
というのは当たり前すぎて、自分の中でコンセプトとしては弱いのではと考えていた。

しかし今回の記事を書き、自分の考えを整理しアウトプットすることでそうじゃないことに気づいた。


当店のコンセプトは、紛れもなく
『薄毛に悩む男性のコンプレックスを軽減するヘアサロン』
である。

そして
『ヘアデザインで人生を変える』
は企業理念なんだということに気が付かされた。

頭の中でコンセプトと企業理念がごっちゃになっていたのを整理する良い機会になった。

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写真は居抜き物件の内見の様子。このサロンが後のINTIになる。
当時はもちろん個室のための壁もなく、セット面4席、シャンプー台2席のすごくシンプルなヘアサロンだった。



【前回のあらすじ】


コンプレックスを抱えたお客様から届いた1通のメール。


その内容はこれからの美容人生に対する考えを変える大きな出来事になった。


その頃、男性のお客様も徐々に増えはじめ、少しずつではあったが、メンズサロン実現へのアイデアをイメージし始めていた。


第2話の詳細はこちら




【第3話】浮かび上がるターゲット


『独創性』『明確なコンセプト』『永続的な需要』これらの条件を満たす美容院。

そんな美容院が徐々に現実味を帯びてきた。


金銭面や集客など、現実的な問題は後から考えるとして、具体的にどんなサロンにするべきか。


私はまず、条件の1つ
『明確なコンセプト』
に照準を絞った。


サロンの「コンセプト」はサロンを継続させる上で必要不可欠な部分だ。

ここで決めるコンセプトがサロンの幹となり、これから決めることの全てはこのコンセプトを基準に構築されていく。

逆に言えばこれをミスると全てをミスる、これがショボいと全てがショボい。

負の連鎖が始まるか、生の連鎖が始まるかはこのコンセプト決めで決まると行ってもいい過言ではないと思った。



そんな重要なコンセプトを考えるにあたり、まず「ターゲット」を具現化することにした。


「ターゲット」とはご存知の通り来店すべき(して欲しい)お客様だ。

この時「ターゲット層」を決めるのではなく、「ターゲット像」を決めることが重要だ。


なぜなら「ターゲット層」では幅が広すぎる。
幅が広いと今後、決めるべきこと全てに必ずブレが生じる。


例えば「25歳独身女性」にターゲットを絞った場合と、「20代の女性」にターゲットを設定した場合。


「25歳独身女性」にターゲットを絞った場合であれば、内装や置く雑誌、営業時間からメニュー展開に至るまで「25歳独身女性」に照準を合わせれば良い。

一方、「20代の女性」にした場合、営業時間は28歳のOLが好む時間に合わせ、内装は21歳の女子大学生が好むインテリアになったりすることがある。
そうなってしまうと、どちらにとってもすでに100点の店ではなくなる。



その為、ターゲット幅は極端なほどピンポイントに狭め、その「ターゲット」となる人物の性別、年齢、生活パターンなどはもちろん、収入や悩み、婚歴、薄毛のレベルなど細部に至るまで何度も試行錯誤した。


細部までとことん決めていくと「ターゲット」の人物が実際に存在しているかのように、くっきりと浮かび上がるまでになった。



【名前】太郎
【年齢】34歳
【性別】男性
【婚歴】なし、彼女あり
【住所】都心ではなく郊外。新宿まで40分ほどの場所。
【その他】24歳過ぎたくらいから薄毛が気になり始め、それからずっと悩んでいる。情報収集はネットだった。
おでこ(M字)が広くなっているのを気にしているが、周りはまだそこまで気づいていない。
進行している気がするので不安が募る。
AGA(男性型脱毛症)の症状あり。



それが浮かんで来たターゲットだった。


そんな彼が通い続ける美容院。



うん。だいぶ方向性が見えて来た。




【あとがき】

今回は「ターゲット」について書いてみた。

ターゲットを決めることがお店づくりの第一歩となることが多いのではないだろうか。


私もターゲットを決めるのにかなりの時間を割いた。
ここには書いてないが実際にはもっと細かく、この倍以上は設定してある。

ターゲットが決まれば、欲張らずにそのターゲットだけが喜ぶことだけを考える。


今もそうだが、何か新しいサービスを始めるときや、何かに掲載する写真を選ぶとき、何かの文言を考えるときなど、
お店の「何か」を決定するときは僕の決断で決めるのではない。

あくまで決断するのはターゲットでなければならない。

ターゲットが必要なら必要。不要なら不要。
ターゲットが読んでいて面白いような言葉を選ぶ。
ターゲットがワクワクする写真を選ぶ。

全てはターゲットが良いと思うかどうかだ。


だから今の店は本来自分がやりたい美容院ではない。
別に個室にしたくもないし、男性だけをやりたいわけでもない。


全てはターゲットのための美容院だ。


オーナーの好みが溢れる美容院は趣味の店だ。
しかし、それが悪いとは思わない。


だがそれ以上はない。



美容院経営をやりたいのか、これまでの美容師の延長をやりたいのか。



もし美容院経営をやるならば、自分がやりたい趣味の美容とは切り離し、ターゲット目線で考えることも大事かもしれない。



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写真はターゲットに見立てて剃り上げたカットウィッグ。このようなウィッグで幾つものパターンを繰り返しカットする。

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