高校二年生くらいの夏、急に友達と

「落とし穴掘らない?」

という話になった。

その友達は中学の同級生で、
高校に行ってもあまり沢山の友達が出来なかった僕らはいつも学校終わりに家で集まって、扇風機の前でグダグダしていたのだった。

あまりに退屈な毎日だったので即「アリだな」と思ってしまったのを覚えている。

落とし穴を掘るという使命を見つけた我々はさっそく近所中からスコップをかき集め、二人〜三人体制で山奥に行き、穴を掘り始めたのだった。

その山は家から30分ほど歩けば入り口に着き、基本的には人がほとんど立ち寄ることはない。穴を掘る場所もちゃんと考えたので僕らが知らないうちに誰かが落ちてしまうという事故は起きないようにした。つまり作戦を練ってその場所に誘導しないと落とせないのだ。そしてそれもまた楽しみの一つだった。

僕らは誰を落とそうかなどニヤニヤ話し合いながら汗だくで穴を掘り始めた。
しかしその土がとにかく硬い!
掘るというよりは削るといった具合で、スコップを突き刺さそうにも刺さらない。ガキンガキンって感じ。さらに大きな石もゴロゴロ埋まってるのでとにかく時間がかかる。近くにコンビニなどは一切ないのでちゃんと水分やらを用意して集まらないといけない。こりゃ長期戦の予感。

山に集まるのは学校終わり。
皆通っている高校も違うし僕なんかは学校から山まで1時間半くらいかかる。となれば、真っ暗になってしまう夜までに掘れるのはせいぜい1時間程度。この土の硬さを考えれば長期戦は免れない。

僕らは週に2、3回集まっては
穴を掘り続けた。いつしかスコップは削りやすい三角スコップに変わり、削り方もかなりコツを覚えてきた。

たまに穴に集合すると、
そこにカエルがたむろっていたりして笑い合った日々。クマでも落ちてたらどーする!?なんてテンション上がったっけ。

たまに夢を見たのも覚えている。
僕らが掘ってる穴が異世界に繋がっている夢。その世界を見てしまったばっかりに異世界の民族に吊るされる夢。怖かった。

やがて季節は変わり、
山は一面が紅葉に染まっていた。
本当に不思議なんだけどその時は紅葉が綺麗なんて思ったこともなかった。ただ穴を掘っていた。でも今考えると、あの山がもし東京にあったら観光スポットになるだろうってくらい、一面の紅葉と落ち葉の絨毯は果てしなく続いていて綺麗だった。

僕らは穴を必死に掘っていた。
硬い硬い土を削り続けた。
寒くなると横穴を掘って焚き火を作りながら穴を掘った。

やがてもうすぐ雪が降りそうなくらい寒くなってきた頃、誰かが言った。



「これ人落としたら危なくね?」
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