前回のブログの続きです。毎日投稿するといいつつ、更新大幅に遅れてすみません。自分のペースで更新するのでよろしくお願いします。
また、このブログが始めての方は前回の物語から読んでいただけると嬉しいです🎵

猫の物品陳列コーナーに先程テレビCMで見た猫のおやつが売られていた。気づくと3袋まとめてかごに入れていた。慌てて2袋元いた場所に戻す。いや、チコはたくさん食べるな、と思いもう一度1袋追加する。いや、やっぱり…と熟考していると、左隣から視線を感じた。
「あっ、図書司書のおねえさん。」
男の子はまんまるな目をこちらに向けて話しかけてきた。
「ぼくね、今日ママと一緒に図書館に絵本を借りに行ったんだけど、図書館が閉まってたの。こんな所にいたんだ!」
無垢な振る舞いに魅せられて思わずしゃがみこんで頭をわしわしと撫でる。
「そうなのね。今日は月曜日だから図書館はお休みなの。明日は開いてるからまたおいでよ。」
男の子はこくり、と強く頷いて買い物かごを覗いた。
「おねえさんも猫飼ってるんだ!僕もね、猫飼ってるの。白い猫でね、ムムっていうんだ。」
「私はチコっていう猫を飼ってるの。とっても華奢ですばしこいのよ。」
男の子はよっぽど猫が好きなのか、うんうん、と体全体で話を聞いてくれた。思わず嬉しくなって、もっとこの子と猫の話をしよう、と思った時
「まあくん」
陳列コーナーの曲がり角から、白いカーディガンと黄色いロングスカートをはいた女の人が柔らかい声でそう呼んだ。
「お母さん!お兄ちゃん!」
男の子は嬉しそうに叫んでかけていった。お母さんの後ろで野球帽を被って佇んでいる小学校高学年ぐらいの男の子がお兄ちゃん、という呼び掛けに対して軽く手を振る。
「お母さんあのね、図書司書のおねえさんと猫の話してたの。」
「そうなの。良かったわね。」 
お母さんはまあくんの頭を優しく撫でながら私に会釈した。私も慌ててお辞儀をする。まあくんはお母さんから視線を私に移して、ぴょんぴょん跳び跳ねながら手を降った。
「また図書館でね。」 
私も小さく手を振り返す。
「また図書館で。」
まあくんは、お兄ちゃんと手を繋ぎながらスキップして去っていった。知らないうちに胸がぎゅっと圧迫されていた。

母はいつの日からか、兄の写真を仏壇に置くようになった。縁起でもないことは止めてくれ、と最初は抵抗したが、これ以上悲しい思いをしたくないと言って引き下がらなかった。母は暇があると仏壇の前に座るようになった。
「ただいま。」
「あっ、ああ、お帰り。」
母は我にかえって体をびくっと震わせた。いつものように母の目は私を通り越して遠くを見ていた。いつもの悲しさを胸にしまって、今買ってきたチコのご飯をしまいに行った。

 私がいちばん好きな仕事は、本の整理だ。利用者さんが間違って異なる場所に本を戻してしまうことがよくある。そういう時に、本を元いた場所に戻してあげると、日差しに照らされた本棚がきらきらと光って見える。まるで「ありがとう」と言われている気分になるのだ。本の背表紙を撫でていると険悪な声が聞こえてきた。
「おい、司書はどこだ。何やってんだよ。」
びくっとした。ふーと深呼吸をして駆け足でカウンターに出ていく。
「私が司書です。どうかなさいましたか。」
「俺は今仕事に行くところなんだ。急いでんだよ。早く借りらせろよ。」
「はい、今すぐ終わらせますね。」
本を受け取ってバーコードを読み込む。本の表紙を見ると、「猫と幸せに暮らす方法」と書いてあった。思わずくすっと笑ってしまう。それを見た利用者はあからさまに顔をしかめた。
「おい、何笑ってんだよ。」
「申し訳ございません。実は私も猫を飼っておりまして、どんな猫ちゃんを飼ってらっしゃるんだろうと想像したらつい口元が緩んでしまいました。」
慌てて言い訳をする。すると、利用者はふわっと笑った。
「あんたも猫を飼ってるのか。俺は先週から飼い始めてな。まだ猫のこと勉強中なんだ。」
頭をぽりぽりとかきながら彼は照れ臭そうに言い、本を受け取ると軽く会釈をして去っていった。猫でこんなにも人は変わるのか、猫は偉大だな。彼が出ていった出入口をぼーっと見ていると、だんだん笑いが込み上げてきた。私は誰もいない図書館でひとしきり笑った。自分の笑い声がこだました。

今回はここらまで。