どしゃ降りの雨に湿った靴を踏みしめ、新型ウイルスへの不安で揺れる情勢のなか、それでも今夜が素晴らしい夜になるとワクワクした予感に満ちてたどり着いた渋谷の街。会場にはきっと私と同じように今日の日をまってた人々が集う。サイドステージには歴代の衣装が並び、舞台は仕立屋に扮した劇団鹿殺しによる贅沢なイントロダクションからはじまった。

中央のパーカッション&トランペット、キーボード、シンセサイザーをはさんでギター、ベース、ドラムが2台ずつ取り囲んだ2バンドセット。発せられた音の波に期待で胸が震える。流れ出したのは「wish」黄昏に照らされた紗幕に映し出されるエレガントなシルエットは夢のようで、けれど幕をはさんで感じる息遣いは本物だ。その姿はただ美しく、ハラハラと知らずに涙がこぼれる。

幕が落ちる。歓声に包まれて現れたのは牡丹の花のような深い赤色の新衣装をまとったヌュアンスの4人。みおちゃんの綺麗な脚をドレープがたゆたう絶妙なスカート丈が最高。 
※後日この衣装デザインがみおちゃんによるものだと公表された。みおちゃんありがとう、ありがとう!!

シームレスに続く演奏に心拍数はあがったまま。ポーズを決めるミサキサンの切れ長の目にゾクッとするような鋭い光が宿るのを見た。やがてバンドは聞き慣れたフレーズを奏ではじめる。前作のミニアルバム『town』から幾度となく演じられた「tomodachi」は生演奏の音に乗り、より強く進化していた。ミサキサンの歌声はステージではためくスカートの裾のようにヒラリ楽しそうに舞い踊り、とりどりの表情を見せる。

よどみなく「byebye」「cosmo」「ハーバームーン」「ヒューマナイズド・ヒューマノイド」とヌュアンスのカッコいいところ詰合せなセットリスト。珠理ちゃんのやわらかな指先から今、ここにいられるよろこびが優美な弧を描いてこぼれ落ちる。

そしてハイテンションな「which's witch」が終わると戸惑う間もなくもう一度「which's witch」2バンドセットを活かしてよりロック色の強いアレンジへバンドをスイッチする仕掛けだ。同じ曲でもくっきりと色が変わる。スタンドマイクに放たれるメンバーたちの想いを込めた声は熱を上げ、やがて叫びへ変わっていく。わかちゃんの紅潮した頬には涙すら光る。音源で聞いていただけじゃこの曲で泣かされるなんて想像もしなかった。

暗転したステージ。メンバーひとりひとりのモノローグが映し出される。映像のなかでは生身の女の子であるミサキサン、わかちゃん、みおちゃん、珠理ちゃんがそれぞれコンプレックスを吐露し、それを乗り越え、変わりたいと独白する。

 再び照らし出されたステージ。初期の代表曲「Love chocolate?」黒髪の少女から金髪ショートヘアのアイドルへと当時からいちばん印象をかえたわかちゃん。映像で感情を表現できるようになりたいと語ってたわかちゃんはこのステージで誰より想いをあふれさせ光輝く。その笑顔はなにより清らかで美しかった。

「セツナシンドローム」も「ナナイロナミダ」も「sanzan」もヌュアンスいい曲しかない。ヌュアンスがいいことはとっくに知っているのだけど今日は特別鮮やかだ。

無垢な子どもが跳ねるように踊りながら歌われる「ピオニー」は素直な歌詞が透明でポップ。多くを語るタイプじゃないみおちゃんが舞台の上ではなんて雄弁なんだろう。力強くたおやかなダンスにも、つぼみがほころぶように笑った顔にも目が釘付けになる。"僕は目をそらさない"と歌うロングトーンがまっすぐに胸を打つ。

続く怪曲「I know power」本当の本気の本音で愛のパワーを歌ってくれるのが笑っちゃうくらいうれしい。あなたに愛をあげるという歌詞に彼女たちはアイドルらしいハートマークじゃなく力こぶをつくってみせる。

たたみかけるような「ミライサーカス」「タイムマジックロンリー」キラーチューンの連発に会場は絶頂的な高揚に飲み込まれる。興奮に思わず走りぎみになる高速の手拍子も16小節じゃ足りないくらい。

一転、メランコリーな世界観に引き込まれる名曲「雨粒」サビで押し寄せる音の洪水に息がとまる。狂気を滲ませた歌詞を歌うみおちゃんの真綿のような声に感受性のやわらかいところが締め付けられる。

"ポチッ"っとメンバーの声によってボタンが押され舞台上のスイッチがオフになっていく「tsukeru」さっきまでの圧巻のパフォーマンスとは打って変わってゆるっとしたMC。
ラストは締めくくりにふさわしい、ストレートないい曲「きっといつか」まさしく大団円。ヌュアンスありがとうという気持ちでいっぱいになりながら振付けにあわせてフロアから手を振る。

もうすっかり満たされた気持ちで、けれどこの夜が終わってしまうのが惜しくてアンコールの拍手。予定にはなかった最後の一曲、今度は幕越しでない「wish」どのメンバーのどの声もどの所作もどの表情も愛しい。この夜に立ち会えたことが幸福だ。

この夜のヌュアンスの眩いきらめきは一瞬だけれど、その輝きの確かさはこの先のヌュアンスがさらに磨かれ、強く光る未来を確信させるものだった。それはきっと自分の弱さと取っ組み合いながら日々を重ねるたくさんの人たちに通じる普遍的な光りだ。
大人になってずいぶん経って、諦めとともに手に入れた今の場所の居心地に安住して未来を信じることを手放してしまいそうになる。でもこのライブを見て強くなりたい、美しくなりたいと志向することは怖くないのだと思えた。それはたとえば、横浜という街に離れて暮らす友達が人生を謳歌する姿に勇気付けられるようなやわらかさで、きっと世界は本当は素晴らしいと信じさせてくれる。ヌュアンスの4人にそっと背中を押されるような気分で外へ出ると、雨上がりの空には澄んだ満月が浮かんでいた。