月別アーカイブ / 2017年05月

感情が入ってしまうと、冷静な議論ができなくなってしまいます。
せっかく時間を割いて、せっかく膝を突き合わせて話しているのに、これは少し勿体無い。

そこで、今、僕のオンラインサロンの中では「"今となってはもう誰も話題にしていない当時の問題"を、熱が冷めきった今、あらためて議論してみよう」という試みが盛り上がっています。

秘密結社 おとぎ町商工会 (2017年前期) | おとぎ商店 on the BASE
※5日以内にご入金が確認できないと無効となります。Facebookの非公開グループ『秘密結社 おとぎ町商工会』に2017年6月31日までの半年間(2017年の1月1日スタート。過去記事も閲覧できます)参加できる権利。ここは、町長が考えていることや今後の作戦会議(口外禁止)、悩み相談(恋愛以外)などをメインに話し合う場です。※2017年1月1日~6月31日までの半年間で6000円(1ヶ月1000円)です。ここでの会話は絶対に秘密厳守で宜しくお願い致します。なお、迷惑行為を働いたり、オンラインサロンの主旨にそぐわない方はお断り(ブロック・途中退会)させていただく場合がございます。あらかじめご了承ください。ご購入いただいた方は、入金が確認できる写真(クレジット決算の場合は購入画面、銀行振り込みの場合は振り込み明細)を添えて、友達申請を出した上で、ニシノアキヒロのFacebookページまでDM(message)ください。DMが届かない場合は、西野のFacebookのコメント欄までご一報ください。グループにご招待いたします。※この手続きをしないと入会できません。
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今回、議論のテーマにあがったのは、『天王寺区の無報酬デザイナー問題』。
覚えてらっしゃいますでしょうか?
今から4年前、天王寺区が、区の広報デザイナーを募集したアレです。
問題となったのは、期間は1年間で、「作品にデザイナーの名前は明記する」としたものの、金銭的な見返りは一切ナシ。
つまり、「タダで働いて」です。

これに対しては、プロ・アマ問わず、大変な批判が集中し、即刻、天王寺区は募集を取り下げたのでした。
詳しくはコチラ↓

この無報酬の募集に対してあがった批判は、ざっと、こんな感じ↓

「デザインをナメている!」

「業界の価格破壊がおこる!業界が疲弊する!」

「『デザインにはお金を払わなくてもいい』というイメージが定着し、同じように無報酬、低報酬の案件が横行してしまう!」

「デザイナーが食いっぱくれてしまう!」

「クリエイターの買い叩きだ!」


僕は絵本なんかも描いてますし、小説やCDジャケット等のイラスト仕事も受けておりますので、決して対岸の火事ではございません。
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腕前や知名度によってピンキリですが、イラストレーターさんの相場も把握しております。
雇う側と雇われる側の両方を経験しているので、そこそこ詳しい方だと思います。
クライアントがクリエイターが買い叩く事案は、事実として存在します。
労働に対する正当な対価は支払うべきだと思います。


さてさて、もろもろ踏まえた上で。。


今回の件で押さえておかなければならないのは『公募』であったということ。
天王寺区は、クリエイターの首根っこを掴まえて「一年間、タダ働きをしろー!」と強要したわけではありません。
気に入らなければ無視をすればいいわけです。

これに対しては、

「たとえ公募であろうと、デザインにはお金を払わなくてもいい』というイメージが定着し、同じように無報酬、低報酬の案件が横行してしまう

という意見が飛んできそうですね。
横行するかどうかは分かりませんが、「それなら、ウチも無報酬(低報酬)デザイナーを募集する!」と言い出すクライアントが出てくる可能性はゼロじゃないでしょうね。

うん。

それも、気に入らなければ無視をすればいい話です。


「報酬を出すよ」と言われ、もろもろ契約を済ませた後に「やっぱり無報酬にする!」と言ってきたら、それは問題ですが、そういうわけではありません。
ハナから無報酬を条件に募集しているのですから、気に入らなければ無視をすればいい。

昔、やなせたかしサンに自治体が無償でキャラクターデザインを依頼していたことが問題になっていましたが、あれは『依頼』で、今回は『公募』。
同じ棚に並べることじゃないと思います。
ちなみに、居酒屋で見ず知らずの方から「お前、芸人やろ? なんかオモロイことやれや!」と言われると、そりゃあ腹が立ちます。


ここで、
無報酬デザイナーを募集した天王寺区に批判の声をあげられた人達(特にデザイナーさん)に、訊いてみたいのですが、


たとえば、ジャスティン・ビーバーが天王寺区と同じ条件で…つまり、

「ジャスティン・ビーバーの活動まわりのデザインを一年間やってくれるデザイナーさん大募集!報酬は出せませんが、デザイナーの名前は出します!

と公募していたら、同じ反応をしてらっしゃったでしょうか?

勝手な予想ですが、「これはチャンスだ!」と結構な数のデザイナーさんが飛びつくと思うのです。
少なくとも、僕がデザイナーなら飛びつきます。


これに対しては、

「天王寺区とジャスティン・ビーバーを一緒にしちゃダメだよ!バリュー(名前を出してもらった時の経済効果)が全然違うんだから!」

という声が飛んできそうです。
まさに、そこだと思います。
今回(といっても4年前ですが)、天王寺区の無報酬の募集に批判が集中した理由は、一年間無報酬で働く分の見返り=天王寺区のバリューが追いついてなかったからではないでしょうか?


天王寺区のポスターやチラシに世界中の人が注目していたら…そこに収入以外の対価、バリューがキチンとあれば、ここまで燃え上がっていなかったでしょう。


ただ、問題は、
「バリューの有無を誰が判断するか?」
というところ。

そこにバリューがあるかどうかは、そこに参加するか否かを悩んでいる当事者が判断することで、第三者が判断することではありません。

「デザインを安く見やがって!」「天王寺区ごときが!」と思う方もいらっしゃれば、
「デザインには自信があるけれど、見せる機会がない。天王寺区のポスターを作れるなら、無報酬でも是非是非!」という方もいるわけで、後者は、天王寺区にバリューを見出だしているわけです。
事実、天王寺区の公募に「無報酬でもやりたい!」と手を挙げられた方はいたわけです。


しかし、批判が集中し、区が募集を取り下げたことで、その方々のチャンスは奪われてしまいました。
ここが一番悲しい部分だと僕は思います。

感情的になってしまう理由はものすごーく理解できるのですが、
個人的になんかヤダ」 「デザイナーをなめている」「業界が疲弊する」「デザインが無料だと思われる」
と"思うこと"や呟くことは当然自由だとも思います。
ただ、区が公募を取り下げるまで抗議を入れてしまい、その公募に未来を見た若者のチャンスを奪ってしまうのは、あらためて向き合わなきゃいけない問題だと思いました。

 

自分の話をしますね。


僕は19歳の頃に『お笑い』の門を叩きました。
最初の月給は手取りが800円ほど。
無報酬の舞台なんぞ山ほどありました。
交通費を引くと、鼻血が出るほどマイナス。
チケットノルマもあり、売り切らなければ自腹です。
その生活から抜け出せる芸人は一握り、99%の芸人がその場所でもがき、数年後には辞めてしまいます。

ただ、僕や、きっと他の芸人も、
無報酬の舞台にバリューを見出だしていました。
吉本に首根っこを掴まれて、無報酬の舞台に上げられたわけではありません。
自分達から率先して無報酬の舞台に上がったのです。
「このチャンスをモノにして、いつか売れてやる」と思っていました。

余談ですが、M-1グランプリは、無報酬どころか、2000円を支払って参加しています。
「漫才なんて、たった4~5分だろ? 一年間無報酬と並べて語るんじゃねーよ」
という声が飛んできそうですが、いえいえ、その"たった4~5分"のネタを作る為に、芸人は一年間を費やしています。
当然、無報酬(どころか2000円マイナス)で、そして、ほとんどのネタが陽の目を見ずに死んでいきます。
それでも皆、M-1の決勝の舞台を目指します。
説明するまでもありませんが、金銭以外のバリューをM-1に見いだしたからです。


話を、デビュー当時の舞台に戻します。

あの時、
「芸人に正当な対価を支払え!!」という批判が集中して、あの無報酬の舞台が無くなっていたら、僕は今、こうして生活できていません。

僕らは、会社員でも、公務員でもありません。
99%の人間が食っていけない世界に、自分から飛び込んだ人間です。
自分の身を守るのは自分の腕のみ。業界が僕らの生活を保障してくれるわけではありませんし、既得権益を守り始めた瞬間に自分の活動の終わりが始まります。

これは、
「俺も無報酬で働いたんだから、お前もやれよ」という話ではありません。
「そもそも全員が食っていける世界ではなくて、僕らは自分でその世界を選んだんだよ」という話。嫌なら辞めればいいと思います。


ここ数年、とくに、デザイン(イラスト)は外注が当たり前になってきました。
インターネットを使って、データでやりとりをするので国境はありません。
「腕のあるヤツが生き残る」という単純明快な超競争社会は日増しに加速しています。

「業界を守れ!」と署名を集めている間、地球の裏側で、自分に時間を割き、一心不乱に自分の腕を磨いている人がいて、そして、仕事はその人に流れます。

僕らがやらなきゃいけないことは、本気で向き合わなきゃいけない事柄は、かなり明白だと僕は思うのですが、皆さんはいかがお考えですか?
議論なので、反対の意見があってもいいと思います。




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いろんなものを作っております。

4日前から大阪に来ていて、ホームグラウンドである『なんばグランド花月』で漫才三昧。
出番合間に新ネタを一本書いて、梶原君と合わせた。
この活動はデビュー初日から変わらず。

ホテルに戻ると、今度は、とあるアーティストさんのCDジャケットのイラストを描き描き。
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才能溢れる、とっても素敵なアーティストさんなので、是非、手にとっていただけると嬉しいッス。

6月4日からは、全ての仕事を一旦止めて、山に籠って、執筆作業。
ここで、向こう2~3年の活動に関わる極めて重要な"設計図"を描きあげなきゃいけないので、その下準備も今、進めている。

ダイノジ大谷さんからは「西野の最高傑作はホームレス小谷だ」と言われる。
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日給50円で、毎日寿司を喰らい、美人の嫁をもらい、20キロほど太りあげて、高笑いをしながら国内外を飛び回っているホームレス小谷。
あんな生き物が最高傑作というのも悔しい話だが、
もともとは物々交換の媒介物でしかなかった"お金"が、いつしか『目的』となり、
貝殻から硬貨に、硬貨から紙幣に、紙幣から数値となった今、
「お金とは何か?」という『お金の本質』を問う存在として、とても面白い。
ホームレス小谷は、Googleの「検索」のように、我々の生活になくてはならないものを絡めた表現活動をしているので、誰も勝てない。
もちろん僕も勝てない。

東京に戻ったら、今度は『しるし書店』の打ち合わせ。
古本を軸にしたコミュニケーションサービスを作る。
軌道にのったら、誰かに運営を任せたい。
詳しくはコチラ↓


パインアメの宣伝大使的な仕事も任された。
こちらは、広告代理店さんが書いた台本をタレントとして演じるのではなくて、広告戦略、その会議からガッツリと参加している。
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日本アカデミー賞の音楽賞をとった渡邊崇さんと、僕の海外の活動のエージェントの佐伯さんに声をかけ、キチンと広告効果のある広告を作っている。
もう少し形になったら発表するので、しばしお待ちを。
写真は打ち合わせに同席した佐伯さんの娘ちゃん。鬼カワイイので友達になった。
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次回作の絵本も作っている。
主人公はウサギのオッサンで、名は『チックタック』、時計の修理工だ。
今度もやはり分業制で、制作には数年を費やす。
Instagramに絵コンテをアップしているので、気が向いたら覗いてみてくださいな。




他にも挙げればキリがないが、とにかくアレやコレやと作っている。
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単純に大きいモノを作りたくて、町も作っている。
『おとぎ町』だ。
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このサイズになってくると、当然、僕一人では作れないので、完成品を届けるのではなく、"作ることをエンタメ"にしてしまって、お客さんと一緒に作っている。
スケジュールが合えば僕も参加するが、僕が参加しない日も、勝手に集まって、勝手に制作を進めている。
先日は壊れた井戸の修理と、芝生の種を撒いたそうだ。最高だな。
子供が怪我をしないように公園から遊具を撤去するのは目先しか見ていない浅はかな行為だと思っていて、
『おとぎ町』では、チビッ子に、
モノを生み出すにはお金がかかることを教え、
お金の集め方を教え、
火が熱いことを、草で足が切れることを教えている。
そして、
たった『水』ですら、
苦労し、自分達で作り出したら、こんなにも楽しいものになりうるということを教えている。

日本に劇的な成長はない。
となってくると、今あるものを、どのようにデザインすれば楽しくなるか?
『おとぎ町』では、ずっと、それを探している。


面白いものが好きで、
明るいものが好きで、
ハッピーエンドが好きで、
そこに発生する一切を引き受けることが好きだ。

今日も作る。





絵本『えんとつ町のプペル』のサイン本(配送します)をお求めの方はコチラ↓
絵本『えんとつ町のプペル』(サイン入り・送料込み・お届けは2017年4月) | おとぎ商店 on the BASE
※入金確認後まもなく、システム上「商品を発送しました」というメールが届きますが、商品は発送の手配が済み次第のお届けとなります。くれぐれも、ご了承いただいた上、お申し込みください。※商品のご購入から5日以内に入金が確認できないとキャンセルとなります。尚、領収証は出せません。ご了承ください。※書店やAmazon等でお買い求めいただいた方が(サインは入りませんが)お安くなりますので、そちらもご検討ください。【あらすじ】煙突だらけの『えんとつ町』では、そこかしこから煙が上がり、頭の上はモックモク。黒い煙でモックモク。黒い煙に覆われた『えんとつ町』の住人は、青い空を知りやしない。輝く星を知りやしない。そんな町に生きるゴミ人間と、親を亡くした少年のもとに起こる奇跡の物語…・・・・・現在制作中の西野亮廣の最新作『えんとつ町のプペル(サイン入り)』です。
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ここにきて、再び売れているビジネス書『魔法のコンパス ~道なき道の歩き方~』より、『はねるのトびらで見た限界』の話をば。

・・・・・・・・
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【『はねるのトびら』で見た限界】

20歳の頃にフジテレビの東京ローカルで深夜番組『はねるのトびら』がスタートした。
あまり知られていないけど、この番組のレギュラーの座をかけて全国各地で大規模なオーディションがおこなわれ、1年目~10年目ぐらいの若手芸人は全員この番組のオーディションに参加した。
『はねるのトびら』は、『夢であえたら(ダウンタウンさんやウッチャンナンチャンさんなどが出演)』や『とぶくすり(後に『めちゃイケ』)』を例に出し、「お笑い界のビッグスターは8年ごとに誕生する」という『お笑い8年周期説』に則ってスタートさせようとしていた番組。
その時のフジテレビの本気っぷりは、当時芸歴1年目だった最底辺の僕にまでビシバシと伝わってきた。
全国オーディションを勝ち抜いた50組が、そこから更に『新しい波8』という新人発掘番組で1年間かけて5組に絞られ、めでたく『はねトびメンバー』が決まった。
 
メンバーに選ばれた僕は有頂天。
右も左も分からない芸歴1年目なもんで、「この番組を全国ネットのゴールデンに上げて人気番組に押しあげたら、僕もスターになれる」と信じて疑わなかった。

たとえ、芸人としてはオイシクナイ役回りであろうと、「番組がゴールデンに上がって、スターになる為なら」と、率先してやり続けた。
 僕にあたえられたポジションは「まわし」で、画面の真ん中に立っているけど、芸人としてオイシイかどうかは微妙なところ。
というのも、『はねるのトびら』では、「ボケ役」と「ツッコミ役」を明確に分けて、「この人が変な人で、この人は普通の人」と、わかりやすいキャラ設定があり、「まわし」役は、「普通の人」。つまり、基準になる人だ。
『チェホンマンVSボブサップ戦』で喩えるなら、僕はレフェリーで、身長が低ければ低いほど周りが引き立つ。
てなわけで、番組を演出するディレクターからは徹底して「普通の人」を演じるように指示されていた。
「近くに海があれば「皆さん、気をつけてください」とアナウンスをし、お葬式のシーンでは「静かにしようぜ」とアナウンスをする。一見すると、芸人のクセに真面目で面白くない奴なんだけど、そのアナウンスに含まれているのは、「海に落ちてね」「屁の一発でもこいてね」というパス。『はねるのトびら』はチームプレイだった。 
 
正直な話、そりゃ芸人だったら、自分が海に落ちたいし、屁の一発でもこいて怒られたい。しかしフリ(基準になる人)がないと、オチ(ボケ役の人)が輝かないことは分かっていたし、なにより、『はねるのトびら』をゴールデンに上げて人気番組にまで成長させたら、自分もダウンタウンさんやナインティナインさんのようなスターになれると信じていたので、自分よりも番組を優先した。
あと、どこかで「とは言え、視聴者の皆さんも(チームプレイだということは)踏まえた上で観てくれているよね?」という考えもあった。
しかし、その考えは脆くも崩れ去る。
 
『27時間テレビ』で、自分達が担当するゲームコーナーのゲストに明石家さんまさんをお招きした時の話だ。
「キムタク」や「ミニスカ」といった省略語の元となった言葉を、リズムに合わせて答えていくという単純なゲーム。
生放送だったが、「明石家さんまサンを中心とした芸人チームが、僕の進行をトコトン邪魔して、結局、ゲームができなかった」という、「こういう流れになればいいな」的なザックリとした台本があって、皆、そのゴールに向かっていた。
当然、僕は「説明を聞いて下さい!」「真面目にゲームをしましょう!」と叫ぶが、明石家さんまさんを中心とした芸人チームは、説明中に僕の前を無意味に横切ったり、「ごめん、聞いてなかった」と、とにかく茶化す、茶化す。
僕は「もう! もう一回説明するから、次はちゃんと聞いてくださいよ! じゃないと、いつまでたってもゲームが始まりませんよ!」と憤る。もちろん、憤るところまでをひっくるめたチームプレイだ。

結果、当初の目標は達成され、スタジオは沸きに沸き、生放送中に一度もゲームをすることなく、「さんまさんが喋りすぎたせいでゲームができなかった」という着地が見事に決まった。
出演者もスタッフも、全員が「よしよし、上手くいった」という感じでスタジオを出たところ、視聴者の方から山のような数のFAXが届いていて、そのほとんどが「何故、西野は、そんなにゲームをしたいんだ!?」という内容だった。
中には、「そんなにゲームをしたいなら、芸人を辞めてゲーマーになれ!」というものも。これには驚き鼻血が出た(※驚いた時に吹き出る鼻血のこと)。
 
僕のことが嫌いな人達が反応しているだけだ、と思いたかったが、都内にお住まいの60代女性から「お一方だけ、ゲームに精を出そうとするあまり、芸人の本分である“お笑い”をないがしろにされている方がいて、不愉快でした」と、震えるほど丁重に殺された。
もちろん僕はゲームをしたわけではない。お笑いをしたいからゲームをしようとしていたのだ。お茶の間には「暗黙の了解」などというものは存在せず、想像以上に額面通りに伝わってしまうことを知った。
「なんで分かってくれないんだよ」と思ったが、そういえば子供の頃、いかりや長介が嫌いだった。だって真面目なことばっかり言って、面白いカトちゃんケンちゃんの邪魔ばかりするんだもん。因果応報である。
 
そんなことがありながらも、「それで番組がゴールデンに上がるならば」と風雪に耐え。僕が25歳になった頃、ついに番組は全国ネットのゴールデンタイムに進出。視聴率は毎週20%を超えていた。
それに引っ張られるように、他局でも、朝から深夜まで自分達の冠番組を何本も持った。
 
思い描いていた結果が最高の形で出た。が、「では自分がスターになったか?」と訊かれれば、全然そんなことはなかった。
収入も増えたし、知名度も上がったし、「人気タレント」と紹介されても恥ずかしくはない位置には立てたと思うんだけど、「スター」にはなっていなかった。僕が右を向けば、世間が右を向くようなスターに。
上には、ダウンタウンさんやタモリさんやたけしさんや明石家さんまさんが、以前と変わらず頭の上にいた。
世界は驚くほど変わらなかったのだ。
 
打席には立たせてもらっていたし、瞬間最大風速は吹いていたのに、だ。
それを「贅沢」と言う人もいるけれど、そこで僕が見たのは絶望とも呼べる景色だった。
もし、売れていなかったら「俺は打席に立たせてもらえれば、ホームランを打てる」という言い訳もできたんだけど、間違いなく売れていたし、この上ない状況で打席に立たせてもらっていたし、ありえないぐらいの追い風が吹いている中で、ホームランが打てなかったのだ。言い訳の余地がない。次に打つ手がない。
「綺麗な子が好き」という情報を聞きつけた恋する女の子が、ダイエットに成功して、お料理もマスターして、ネイルも綺麗にして、ヘアメイクもオシャレもバッチリ決めて、万全を尽くした状態で意中の男性に告白したら、「ごめん。俺、ゲイ」と返された感じ。「いや、もう絶対に無理じゃん」的状況。
すべての条件が整った上で、「スターになる」という結果が出せなかったわけだ。
だからこそ、「いや、このタイミングでスターにならなかったら、俺、いつなるの?」と、仕事の好調ぶりとは裏腹に、精神的には随分は落ち込んだ(2日ほど)。
 
『はねるのトびら』は、ゴールデンに上がったあと、6年間続いたが、ゴールデンに上がった瞬間に「スターを誕生させる」という意味での勝負はついていた。ザックリ言うと負けちゃったわけだ。もちろんスタッフさんには何の罪もない。
連日、眠い目をこすって動いてくださっていたのを見ていた。デビューまもないニキビ面を拾って、ゴールデン番組まで押し上げてくださったことを今でも本当に感謝している。
原因は僕だね。
たしかに、他のメンバーの〝フリ役〟に徹することを言われ続けてきたけど、今思うと、そこにかまけていた部分があったのかもしれない。
まあ、それも結果論だ。あの時は全力だったし。結果が全てで、「結果を出せなかった」というのが答えだ。
 
ただ、だからと言って、「ああ、俺はスターになれない男なんだなぁ」と折り合いをつけられるほど、僕は大人ではない。
次の瞬間に考えたのは、「じゃあ、どうすれば、ここからスターになれるかな?」ということ。とにかく諦めの悪い男なのである。
 
さて。
八方手を尽くし、散々っぱら結果を出した上でスターになれなかったのだから、酷だけど、自分がスターになれない人間だということは認めなければならない。
それでもスターになりたいのであれば、今の自分ではない何者かになる必要がある。まあ、「種の変更」だね。
それは、魚が鳥になるようなムチャクチャな話で、身体の形をゴッソリ変えるということ。
 
その時、僕がとった方法は「一番便利な部位を切り落とす」というヤリ方。
はやい話、自分が全てにおいて40点で、何も突き抜けた部分がない平凡な人間であれば、皆が使っている一番便利な部位……たとえば「腕」を切り落としてしまう。
皆が使っている一番便利な部位は、当然、自分にとっても便利な部位なので、そこを切り落としてしまうと、最初は、それはそれは苦労するけれど、僕らは動物で、それでも生きようとするから、3年後には、コップぐらいなら足で持てるようになる。腕を切り落とさなかったら起きなかった進化だ。
足でコップを持てる奴なんて、そうそういないから、「アイツ、足でコップを持てるらしいよ」と、この時、初めて自分に視線が集まる。
 
そこで25歳の頃の僕は、自分を進化させるため、思い切って一番便利な部位を切り落としてみることにした。
テレビだ。
梶原とマネージャーと吉本興業の偉くてエロいオジサン連中を呼びだして、「レギュラー番組以外のテレビ仕事を全部辞める」という話をした。
当然、皆ひっくり返って、「何言ってんの? 今一番良いじゃん! なんで、このタイミングで!? 」と説教をくらったけど、「一番良くてコレだから、辞める」と返事して、屁をこいて逃げた。
レギュラー番組以外の仕事を全部辞めることは、腕を斬り落とすような強引なやり方だけれど、そのことによって、身体のどこかが極端に進化すれば、希望の光が射すのではないか。そんな淡い期待を込めての決断だった。
レギュラー番組以外のテレビ仕事を全部辞めるという選択は、「新しい繋がりを切る」ということで、他所で何かをヒットさせない限り、レギュラー番組の消滅と同時に自分の活動が先細りしていくことを意味していた。
だけど、そうでもしないと、何者にもならないまま死んでしまうという焦りがあった。
 
時々、「『はねるのトびら』が終わった時、どういう心境でしたか?」という質問をされることがあるけれど、心境と環境の変化があったのは、番組が終わった時ではなく、番組がゴールデンに上がって結果を出して、僕自身の結果が出なかった、25歳のあのタイミングだった。
そんでもって絵を描き始めたのは、ちょうどその頃。この話は、また後ほど。


『魔法のコンパス ~道なき道の歩き方~』より














 

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