今日放送予定のNHKラジオ第1「香山リカのココロの美容液」

テーマはミスを繰り返してしまいます




精神科医・香山リカが同世代の女性たちに贈るトークと音楽の25分。
仕事や家庭にちょっと疲れた週末の夜。癒しと活力をリラックスしたムードの中でお聞かせします。


12月2日(金) NHKラジオ第1
21:30~21:55 放送予定

※緊急ニュース等のため、放送時間が変更になる場合もあります。
 
是非お聴きください


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 外来診療を終え診察室の背部のドアからバックヤードに出た私を、衝撃的なニュースが待っていた。看護師さんが教えてくれたのだ。
「ASKAさん、また逮捕されるというニュースを待合室のテレビでやってます。尿検査で覚醒剤反応が陽性だったって。」
 その看護師さんが言うには、18時半現在でまだ逮捕はされていないが、警視庁が逮捕状を取ったという情報もあるそうだ。
 ネットを見ると、すでに彼を凶悪犯罪者呼ばわりしている声もあり、これはひどい人権侵害だと思う。まだ逮捕も起訴もされていないのに。しかも、
本人は覚醒剤の使用を否定しているというのだ。
 そうだとしたら、この段階でASKAさん
自身に関してまだ断定的なことはなにも言えない。
 それに、もしこれからASKAさんが逮捕されることがあって、取り調べや裁判で覚醒剤使用を万が一、認めたとしても、彼を「極悪人」呼ばわりすることには、以下に述べるような理由で反対である。
  彼は、覚醒剤依存症という重病にかかっている人なのだ。

 さて、「ASKAさんの人権」などと言いながら、以下ではそのASKAさんの名前を何度も書くことになるが、どうしてもいまの時点で知っておいてほしいことを伝えるためということで、その点はお許し願いたい。

 当然のことだが、私はこのASKAさんのニュースにはとても驚いた。とくに今日は、お昼からの外来診療を始める前に、「ASKAさんが新アルバムを作成中で、来月には収録曲の一部を動画共有サイトで公開する」といったニュースを見たばかりだったからだ。
 しかし、それを目にしたときも「もう仕事再開?ずいぶん早いな。大丈夫なのだろうか」と一抹の不安がよぎったこともたしかだ。
 言うまでもないが、ASKAさんは2014年年8月に覚せい剤取締法違反(使用、所持)などで懲役3年(執行猶予4年)の判決を受け、その後、専門病院に入院して退院。判決を受けてから“まだ”2年あまりしかたっていない。

 もしかすると、一般の人はこう思うかもしれない。
「“まだ”じゃなくて“もう”2年なんだから、元の音楽活動を再開してアルバムができても早すぎるということはないだろう。それに、ASKAさんにとって音楽は命なのだから、一日も早くその世界で輝きを取り戻すことが覚醒剤から手を切るためにも、必要なはずだ。」
 しかし、覚醒剤の使用をやめるのは、それほど簡単なことではない。まずは少なくとも2年は、経済状況が許されるなら、仕事のことは考えずに治療に専念するほうがよいだろう。もし、現時点で本当にアルバムが完成に近づいているとするならば、おそらくかなり早い時期から制作に入っていたに違いない。
 そして、「音楽家だから、音楽活動が何より依存症の治療になる」という考え方も少し違う。
 
 前回逮捕のあとのさまざまな報道や裁判で明らかになったことから、ASKAさんは覚醒剤をたまたま使用したのではなく、かなり繰り返し使用し、依存症の状態になっていたと考えられる。
 この覚醒剤依存症は、わかりやすく言うと、完全治癒はありえない病気だ。覚醒剤により脳と心のかたちが変わってしまうので、いくら刑務所あるいは病院にいる間は覚醒剤を絶っていたとしても、それで「治った」とは言えない。隔離された環境を出てから、毎日毎日、「今日も覚醒剤を使わないぞ」と決意して、いちにちの終わりには「よし、使わなかった」と確認し…という日々を重ねて行くしかない。「これで安心」という日は一生来ない、と言ってもよい状態、それが覚醒剤依存症なのだ。

 しかも、その薬物への欲求は、いつなんどきどんな形で頭をもたげるかもわからない、という恐ろしさもある。
 私が昔、担当していた薬物依存症の女性は、入院中は「もう絶対にクスリには手を出しません。子どものためにも良い母親になります」と涙ながらに誓い、退院した。ところがそれから数か月後、あっさりとまた違法なクスリを使用し、再入院となったのだ。私はあきれて、「あの涙は何だったの」と言ってしまった。すると彼女は、「あのときは心の底からやめようと思った。でも、退院して子どもといっしょにテレビを見ていたら、若い人が集まって踊っているシーンがあった。それを見た瞬間、昔、こういうクラブでクスリを買った記憶がいっぺんに頭によみがえり、その日のうちに売人を探して出かけて買ってしまった。自分ではもうどうにもならなかった」と語った。
 
 そのように、脳やこころの形が前とは変わってしまうので、大げさに言えば24時間、「クスリがほしい」という気持ちと闘ったり、「もう安心」と思ってもほんの小さなきっかけでまた一気に薬物への欲求が大きくなったりする、それが依存症なのだ。
 だから、それを防ぐためには、最初の2年くらいはできれば毎日、依存症者が集まるミーテイングに出席する必要がある。ひとりになる時間を作らず、とにかく仲間と体験を語り、「今日もやめよう」と約束し合って…と、覚醒剤などの薬物を使わずに一日を送ることが、“日々のすべて”という生活を送るのだ。
 だから、いくら音楽活動など依存症になる前に打ち込んでいたことがあったとしても、安易にそれを始めるのは危険だ。繰り返すが、「音楽をやっていれば覚醒剤を忘れられる」といった精神論ではクスリはやめられないし、いろいろな人と接することで、薬物への欲求のスイッチが入りやすくなるからだ。

 そうやって、まずは「クスリをやめ続けること。今日も使わず、明日も使わないこと」という日々を送り、ようやく次の段階として社会生活への復帰がある。とはいえ、いくら元の仕事に戻ったからといっても、「刺激により一気にクスリへの欲求が」という状態は根本的には変わらないので、週に1回でも2回でも、当事者グループのミーティングには行き続けたほうがよいのは言うまでもない。

 もしASKAさんが今回、本当に覚醒剤に再び手を出したとするならば、本人や周囲の人たちに、「覚醒剤依存症は、完治はありえない、脳とこころの病気だ。依存症との闘いは一生続くのだ」という自覚が足りなかったとは言えないだろうか。
 
 悲観的なことばかり書いたが、いま日本には幸いなことに、依存症を専門に治療する病院、医師などの医療職やケースワーカーなどの福祉職、そして退院後の本人さらには家族を支える回復者施設、当事者グループなどさまざまな社会的な資源がたくさんある。そこでは、経営者も有名人も、既婚者も独身者もみな同じ。
 依存症についてきちんと学び、当事者たちと「依存症と闘う仲間」としてお互いクスリに手を出さないよう目を光らせ、励まし合い、みんなの力でクスリを今日も明日もやめ続ける。
 そうすることによって、何年か後にはまた元の仕事、さらには新しい仕事で活躍できるようになった人もたくさんいる。もちろん、結婚をしたり子育てをしたりしている人もいる。

 そして、もうひとつ。覚醒剤依存症は逮捕や服役だけでは、絶対に回復するものではない。一時的に薬を強制的に絶って“真人間”になったように見えても、それはそのときだけのことだ。
 もちろん、覚醒剤取締法があるからには、それに抵触した場合は逮捕となり、場合によっては有罪となるのも当然だし、それが使用の抑止にまったく有効でないとは言わないが、何度も言うようにこの人たちに必要なのは、病気という自覚と治療、そして彼らが退院や服役後、安心して地域に住んで、引き続き治療や当事者ミーティングに参加できるような環境づくりなのだ。彼らを地域から排除して、どこかに隔離しておけばそのうち治る、というものではない。

「法に触れたら即、逮捕。あとは服役などでなるべく長く一般の人から遠ざけるか、さもなくば一日も早く元の仕事をやらせて自覚を促す。」
 これでは絶対に、覚醒剤依存症は治らない。社会や地域が彼らを受け入れ、家族や周囲の人々ももちろん本人もこの病について理解し、向き合い、そこでじっくり治療を続けてもらう。これしかないのだ。
 万が一、ASKAさんがまた逮捕されることになっても、マスコミや一般の人には「だらしない、有名人などに自覚がない」などと彼を極悪人呼ばわりをしたり、音楽界から永久追放したりしてほしくない。「覚醒剤使うとこんな制裁を受けるよ」と世間への見せしめにはなったとしても、それは彼自身のためにならないことはもちろん、薬物使用の抑止効果にはほとんどないからだ。
 もちろん、必要な場合は司法の裁きも受けなければならないかもしれないが、今後、ASKAさんに適な治療とケアが与えられることを、心から願っている。


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テーマは人に依存してしまいます




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11月25日(金) NHKラジオ第1
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